日本ベトナム友好協会大阪府連合会

9.ベトナム人は日本のなにを知っているか?

 ここまでは、日本人のベトナム認識が不足したりまちがっているという話ばかりしてきました。しかし、お互いが相手を理解しなければ、交流や対話はうまくいきません。また、相手に自分のことを理解してもらおうと思ったら、相手がなにを知っているかに合わせて話をしなければなりません。では、ベトナム人は日本のなにを知っていて、どんな日本イメージをもっているでしょうか。

 20世紀はじめに日本に留学して近代国家建設を学ぼうとしたドンズー運動がありました。第二次大戦中には日本側が、味方をふやすために東南アジア各国からの「南方特別留学生」を受け入れました。しかし、これらが長続きしなかったため、ベトナムでは最近まで、日本についての知識は、きわめて乏しい状況のままでした。このHPに以前書いた「ベトナム人の日本語を理解する方法」もごらん下さい。

 どこの発展途上国でもそうですが、日本の経済力と工業技術はよく知られています。ベトナム人にとってバイクがなにより大切なので、「ホンダ」の知名度は圧倒的です。「トヨタ」も有名なので、ニセ・ブランド品で「トヨタのカセットテープ」を売っていたという笑い話を聞いたことがあります。ベトナムでは化学調味料を大量に使用するので、「アジノモト」もかなりのものでした。

 1980年代以降は韓国、台湾、シンガポールやタイ、中国などの工業製品もどんどん輸入されていますが、「値段は少し高くても品質は日本製に限る」という声をよく聞きました。なかには同じ日本製でも、外国輸出用に作っている製品より日本国内向けの製品のほうが質がいいからといって、わざわざ電圧のちがう日本から持ち帰った製品を変圧器を通して使うという、念の入った人もいました。
最近はベトナムでも、マンガ、アニメ、カラオケなど日本の「ソフトパワー」の影響が強まっていることは言うまでもありません。「おしん」はいまだに語りぐさです。
こうした日本への感心は、「日本に学んでわれわれも豊かになりたい(なれるはずだ)」という意識と強く結びついています。「おしん」がヒットしたのも、そこにひとつのカギがありました。ただ、日本人の勤勉さや技術・経済面での創造性に学べという声はよく聞きますが、そこで欠かさない「細かいところに徹底してこだわる精神」にはほとんど気付いていないように思います。小学校の国語の勉強で、漢字の「はねる、はねない、出る、出ない」を50回も100回も練習させる、というあれです。善悪は別として、あの教育がなければ日本の高度経済成長はありえなかったのですが、「人は自分の見たいものだけを見たという」ということでしょうか、要領良さと変わり身の早さ、それに幅広さがなにより大事なベトナムでは、一つのことを愚直にコツコツ修行しつづけるという精神は、理解されにくいのだと思います。

 同じように、日本では最近まで「不言実行」が尊ばれ、おしゃべりが嫌われてきた点、剣豪映画などでは、香港空手映画式の延々数百回打ち合うものより「両者動かずにじっとにらみあい、勝負は一瞬で決着する」タイプの好きな人が多い点なども、ベトナムとはすごくちがう点で、日本人とのビジネスにも欠かせない知識だと思うのですが、全然認識されていないかもしれません。
ベトナム015.jpgそのこととも関連しますが、日本の文化や社会に関する知識・理解はまだまったく不十分です。欧米のことはよく知っていてもアジアのことを知らない、という欠点は日本人だけのものではありません。富士山と桜の花、着物姿の女性、華道に茶道など、イメージはおおむねワンパターンです。もっとも「生春巻きとフォーしか知らない日本人」は、相手に紹介するのも、お茶やお花しか思いつかないことが多いのですが。また、「トーキョー」と「ヒロシマ・ナガサキ」はよく知られており、「キョート」もまあまあですが、「オーサカ」は残念ながらそれほどではありません。

 そのへんの知識不足はやがて解消されるかも知れませんが、ある意味でもっと難しいなと感じるのは、「日本はわれわれの数十倍豊かで、近代的な国なのだから、社会もそれだけすばらしいに違いない」という素朴な誤解です。教育、医療、福祉、なんでも行き届いているにちがいない、子どもも女性も老人も尊重されているにちがいない、人々はみんな教養があって礼儀正しくて上品で、粗野な振る舞いなどしないだろう...すべてがバラ色のイメージです。
オウム真理教事件のときも「日本のような先進国でどうしてあんな事件がおこるのか理解できない」とおおぜいに言われました。「資本主義先進国では社会のひずみが激化するからこうなるのだ」といくら言っても理解されません。

 ハノイ国家大学で、ある年配の日本人の学者が日本近現代史を教えた際に、現代日本社会のひずみを一生懸命教えたら、「われわれはそんな話を聞きたいのではない」と学生から抗議されたそうです。多くのベトナム人学生が学びたいのは、そんなことではなくて、「高度経済成長の秘訣」なのでしょう。
それでよいと言ってるのではありません。ベトナム人にそんな日本理解をされては困るのです。それなら、どうしたらいいのでしょう。
少なくとも、お互いの語学力や知識を、今よりかなりレベルアップしないと、こういう誤解が解けないことは確実です。われわれのベトナム語力やベトナム認識も自慢にはならないのですが、それを棚に上げていえば、ベトナム人の日本語力は、韓国・中国の上手な人とくらべて、足下にも及ばない状況です。通訳・観光ガイドのレベルも、日本語は下手だし日本人のことがわかってないという点で、韓国・中国とくらべてはっきり落ちると言わざるをえません。

「優越意識丸出しで相手を指導しようとする」のではなく、相手をじゅうぶん尊重し、しかし「甘えは許さずにレベルアップをもとめる」、そういう態度がたとえば「友好協会旅行団」には求められるでしょう。そしてそうするためには、ベトナムと日本双方の文化や社会について理解していなければなりません。