日本ベトナム友好協会大阪府連合会



3.ベトナムの歴史はベトナム戦争だけか?

 前回の生春巻きとフォーの話より深刻だと私が考えるのは、ベトナムの歴史というとベトナム戦争のことしか話さない(思い出さない)日本人があまりに多いことです。

 私は商売柄、あちこちで歴史の講演を頼まれるのですが、ベトナム以外の東南アジア史、海のアジア史、歴史教育などの講演は別として、ベトナムについての講演というと、友好協会の外でも中でも、頼まれるのは「ベトナム戦争」ただひとつです。歴史以外でも、「現代ベトナム情勢」「とにかくなにかベトナムのことをしゃべってくれ」の2つだけで、だれも私の専門のことなど聞こうとしません。これでも私は世界で5本の指に入るベトナム中世史研究者のつもりなのですが(誰です、ベトナム中世史の専門家は世界で5人だけだろうなんて正しいことを言うのは?)。

 日本の鎌倉時代や室町時代の歴史を研究している学者をつかまえて「アジア太平洋戦争の話をしてくれ」と頼む人はいないと思いますが、相手がベトナムだと話がちがうようです。

 たしかにベトナム戦争は大事です。私も教養課程の授業では力を入れて教えます。若い人に、料理とファッションと雑貨だけでベトナムをわかった気になられては困ります。

 でも逆に、「ベトナム反戦世代」のみなさんがベトナム戦争のことしか言わないのも、同じくらい困るのです。

 去年、ある年配の日本人グループとの交流会でハノイ国家大学日本語科の学生が「どうして日本人はベトナム戦争のことしか話さないのですか」と尋ねました。日本に来ているベトナム人はじきに慣れるでしょうが、「戦争終結から30年以上になるのになぜ?」とベトナム国内の若い人が疑問に思うのは当然です。敗戦後30年たった日本で、やってきた外国人が全員アジア太平洋戦争の話しかしなかったら、日本の侵略戦争の歴史に正面から向き合わねばならないと当時から考えていた大学生の私も、うんざりして怒り出したと思います。

 「ベトナム初心者」がベトナム戦争しか思い出せないのはしかたがないでしょう。諸外国とちがう日本の問題点は、初心者ばかりで、そこから先に進む人の割合が異常に低いことです。そして、日本全体の人口はイギリスとフランスを合わせたより多いのです。多数の初心者が押し寄せてきて同じ話題ばかりもちだしたら、どんなテーマであれ相手はうんざりするでしょう。そもそも「ベトナム戦争の話ばかりする日本人」はたいてい、現実の日本がアメリカに支配されていることを怒り、ベトナムがアメリカをギャフンと言わせたことを喜んでいるんじゃないんでしょうか。だったらベトナム人民のゲリラ戦に学んで、もっと多彩な切り口でベトナムに迫りましょう。

 SANY0004.JPG最後にまたも憎まれ口をひとこと。去年の夏にベトちゃんドクちゃんで有名なドク君が新妻を連れて日本に来ました。大阪で開かれた歓迎会で「ドク君夫妻は、自分たちのためだけではなくて、われわれのために結婚したということも忘れないでほしい」というような意味のスピーチをした年配の活動家がいました。

 ドク君はとても賢くて日本人のこともよく理解しているので、「関係ないだろ」とは言いませんでした。が、たとえば私のゼミの学生がドク君の支援に大活躍していたとして、それでもその学生がこんなことを言ったら私は、「何様のつもりだ。そんな思い上がった運動などやめてしまえ」ときびしく叱りつけるでしょう。
  
 人助けをした人が助けた相手に「おまえはオレに助けられたことを忘れてはいけない」と言うようなものじゃないですか。この方の善意を疑うつもりはありませんが、善意でもこれは勘違いです。万一こういう勘違いをしている人ばっかりだったら、たいへんなことです。

「自分はかわいそうな人を助ける良いことをしたい」という善意が、「相手に対する蔑視」や、「自己満足」と紙一重であることは、国際協力の現場でつねに問題にされる点です。